おやじ番
真と伸では少々野球との関り方がちがう。彼らはたった3歳しか違わないが彼らの同年代の子供やその親達がまるで違った。これは今思い出しても不思議だ。それぞれが生まれた年代どんな出来事があったのか研究すれば結構面白いものがあるかもしれない。
真は、7歳の時からアイスホッケーを始める。これは彼の母親が当時の彼の事を考えて決めたことである。ああ見えても当時の彼は神経質で難しい子供だったらしい。そのときから今までアイスホッケーを飽きずに続けているのだから余程魅力のあるスポーツに違いない。まあ最近の太りぎみの彼の風貌でもホッケーをしている時はそれなりに格好がいい。ただ、あれだけ厄介な(ツルツル滑る氷の上を長い棒切れを持って、だるまさんのような格好をしたGKと称する人が守る小さな網のついた門に薪を輪切りにしたような木っ端を放り込む)スポーツをこなしながらも他のスポーツとなるとどうにも格好が悪い。
真が小学校の高学年になる頃は彼の住んでいる地域には結構多くの子供達がいた。それも男の子が多い。そうなれば、その親たちもちょうどいい年代で話が合うもんだから親・子を取り巻くコミュニケ−ションが取りやすい。そういう意味で、真は町内会の子供達との付き合いは多かった。地域の町内子供会対抗のスポーツイベントがありそれを真剣に取り組み楽しんだ。ソフトボール大会・運動会・相撲大会・・・・あの短パンにまわしをつけた姿は今でも思いだして楽しんでいる。・・・今思えば子供が育つ環境でこれ以上のものを探すにはかなり骨が折れる。
さあ、他のスポーツでは格好が悪いといったが、(スポーツ音痴の私が大変失礼な言い方なのだが、その私の子供なのだからしょうがない。)いわゆるスポーツセンス(そういうものがあるのかどうか分からないが)でプレーをしているんじゃなくて楽しいものを上手くなりたいと努力するタイプに見える。 そう、彼が結果を出す前には結構前からちょっとずつ練習をしていたように思う。この姿勢は、当時から尊敬している。これは多分に母親の性格によるものだ。
小学校4年頃からソフトボール(子供会)野球(部活)と付き合い始める。それまでにもキャッチボールや近所の子供達とも空き地でそれらしきものをやっていたのだが、学校のグランドいっぱいを使った”本当の”野球にであったのだからさぞ嬉しかったろうと思う。事実、始めての部活の日、遅い時間に帰ってきた彼の顔は土や埃にまみれた野生児だった。その顔を見たら何やらこっちまで嬉しくなってその日一人で飲みすぎた事を思い出す。(いつもでしょ!−−−彼の母親)
野球のボールは自分から当たりに行けばそんなに痛いものではない。こう言えば、反論が津波のように返ってきそうだが、あの清原を思い出して欲しい。彼は被死球の王者である。最近の彼は、よく故障するのだがそれは彼の筋肉が強すぎて彼の体自身を痛めつけるためである。現役バリバリの動体視力で鍛えた筋肉にボールが当たるように体をコントロールすれば死球そのもので故障する確立は低い。同じチームの江藤などはそういう球はあまり得意ではない。
さて、真は鉛筆は左、箸は右、投げるのは左となんとも中途半端な左利きなのだ。だから結構、守備位置は限られる。案の定、ファーストだ。(ここでは詳しく言わないが)主に内野手がグラウンダー(ゴロ)を捕球した後、放る球を取る事が主な仕事である。なかなか上手くこなしている。ただ、ちょっと気にかかる事があった。(これが、大きなお世話なのだがどうも親とはそういう生物らしい)野手の投げる球が届かなくてバウンドする時、怖がって横を向いてしまうのだ。それでも伝統の”魔法のファーストミット”のおかげで取れて(入って)しまうのだが。
さあ、ここで厄介な父親の登場である。自分自身もショートバウンドは完璧に3時15分の方向に顔を向けて全く取れないのに息子に対しては強気なのだ。また、真もその時は私が”うんち(運動音痴)”とは知らないものだから素直に言うことを聞く。そこで”特訓”が始まった。
私は当時、草野球をやっていて監督だったため野球道具は一式我が家に保管してあった。これが真にとって災いの元であった。人間は一番痛いと思う部品を首から上に持っている。だから、当たりそうだと判断したら顔をそむけるのは自然な行為なのだ。そこで登場するのは「キャッチャーズマスク」である。当たっても顔全体に衝撃があるものの局部は痛まない、そういう代物である。彼は、いままで付けた事のない道具を(ホッケーのヘルメットは馴染みがあるが)つけて張り切っていた。私も”子供は誉めて伸ばす”派なものだから彼の捕球を見ながらテンションを上げていた。
その時、悲劇は起こった。それまで今までにない手さばきで、しかもマスクをしているためしっかり目を離さずボールを見極めてキャッチしていたのだが。地面の小石にボールが当たり微妙な弾み方をした。それは僅かな時間なのだがアイスホッケーで鍛えた瞬発力で思わず顔をそむけてしまった。
そう、そのままであったらボールはマスクに当たって事なきを得たがなまじ顔を背けたばっかしにまともに横っ面にパンチを貰った格好になった。その後はみなさんのご想像にお任せするとして、その夜は一人、悔恨の酒を飲むのであった。(あなたっていつもそうだよね。---彼の母親)
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